■本書の特徴
矢倉5三銀右急戦は不思議な戦法です。「急戦」と言いながら持久戦になることもあれば、「矢倉」でありながら石田流のように軽く指すこともあります。
矢倉5三銀右急戦は1990年代の前半から盛んに指されている作戦です。優に20年以上に及ぶ歴史は、4六銀・3七桂型と同じかそれ以上と言えるかもしれません。
しかもこの戦法は大勝負と縁が深く、90年代の七冠フィーバー、2008年の初代永世竜王対決など、「ここ一番」という大勝負で採用されてきました。近年の竜王戦や名人戦でもたびたび登場し、信じられないような展開となっています。
これほどの大型戦法であるにもかかわらず、これまでまとまった定跡書が刊行されていませんでした。この大きな空白を埋める本が誕生しました。
目次をご覧いただけばわかりますように、黎明期から最新形まで、この戦法の定跡の流れをていねいにたどっていきます。この戦法は何度かカベにぶつかって行き詰まり、その度に大きなブレイクスルーがあって進化を遂げてきました。そこで繰り広げられる盤上のドラマ、人間ドラマは感動的です。重要な将棋はもちろん、タイトル戦で登場した将棋はほぼ取り上げましたので、大河ロマンを読むような妙味があります。
巻末には「対局ファイルと年譜」(8頁)を設け、年表形式と一言解説で、この戦型の歴史がよくわかるように工夫しました。
■著者からひとこと
矢倉5三銀右急戦の定跡をまとめてみました。この戦法は幅が広いうえに奥が深く、しかも急戦でありながら持久戦にも対応できるという性格をもっています。そんな柔軟性があるからこそ歴史的大舞台で何度も採用されてきたのでしょう。得意戦法にするもよし、観戦ガイドとして活用するもよし。大いに楽しんでください。村山慈明
■目次
プロローグ
第1章 △2二角からの攻防(1989→1999)
第2章 △7三角からの攻防(1992→2004)
第3章 ▲4六角からの攻防(1993→2006)
第4章 衝撃のW新手 (2008)
第5章 渡辺新手のその後 (2009→2014)
第6章 さまざまな対策 (1992→2014)
コラム:8筋の突き捨てと羽生・森下論争
対局ファイルと年譜